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総務省が敬老の日の2日後に公表した直近の人口推計(9月1日現在の概算値)によりますと、総人口は前年同月比52万人減の1億2445万人となりました。年齢階層別にみると、15歳未満1422万人、15~64歳7400万人、65歳以上3623万人となっています。65歳以上の割合は29.1%に達し、シニア世代は少子化を背景に働き手としても期待もかけられ、その活用策や環境づくりは上場企業の株価も左右しかねません。高齢者雇用安定法で企業は65歳までの雇用確保を義務づけられており、これまでは60歳でいったん退職させ、条件を下げる再雇用方式が主流でしたが、定年を引き上げる方式に切り替える事例が目立ってきました。
住友化学は来年4月から、定年を60歳から65歳へと段階的に引き上げていきます。役割を整理したうえで、59歳までと同じ人事評価枠での処遇となります。現在、60代は再雇用で給与水準は4~5割ですが、今後は9割以上となる見込みです。モリタホールディングスは昨年10月からグループ6社で定年を延長しました。65歳まで昇給・昇格制度も続きます。2年前に定年を延長した阿波銀行には60代の支店長もいます。
総務省の就業構造基本調査によると、昨年の有業率は60~64歳が72.5%、65~69歳が50.9%で、2017年と比べてそれぞれ5ポイント以上の上昇です。60代の労働参加がすすみ、より密度の濃い働き方も追求されはじめています。給与が下がる再雇用はやる気に響きかねません。元気な60代に最大限能力を発揮してもらえば、日本の金融資産の3分の2が60歳以上に偏るなか、長く一線で働くシニアの購買力はより高まるでしょう。
一方で、定年延長に伴って人件費は増え、コスト増に見合った成果を引き出せるのかが焦点になってきます。また、上の世代が残ることで、40代などの中堅層の意欲にマイナスの影響を与えるかもしれません。定年延長後に従業員の離職率が上がるようなケースがあれば、株価にも響くでしょう。そして、財務への影響も見逃せなくなってきました。65歳定年への移行をすすめているTOTOは、退職金制度の変更で2023年3月期に8億円超の退職給付債務の増額が発生しています。住友電設も定年引き上げで退職給付債務が変動した旨を2021年3月期の有価証券報告書に追記しました。
上記の2社は会社規模に比べれば金額は小さいのですが、産業界で60代の従業員が増えていけば、コスト増・財務面への影響とのバランスも考えていかなければなりません。報酬の年功部分の圧縮や年金制度の見直しなど、知恵が問われています。また、シニア層は体力や能力の差も大きく、その活用には丁寧な人事設計が必要でしょう。
さて、経済産業省などは毎年、健康配慮に優れた企業を健康経営銘柄として選定しており、審査項目には高齢従業員への配慮も入っています。健康経営銘柄は多様な働き手の社会進出を後押しする視点からも、ESG(環境・社会・企業統治)を重視する投資家の関心が高いものです。シニア活用は企業変革のきっかけになり得るものであり、弊社でも他社の取り組みを注視して参ります。