NISAとは、運用益や配当などの利益に、税金がかからない投資制度のことを指します。種類は、「一般NISA」「つみたてNISA」と、あと3年で終了する「ジュニアNISA」があります。2024年には「新NISA」が始まったり、つみたてNISAの利用期間が延長されたりするなど、話題に事欠かない制度です。
資産運用をする上で、利益が非課税になることは大きなメリットですが、予備知識をしっかり備えておかないと、思わぬ損をしかねません。
一般NISAの「非課税」という甘い文句につい乗せられたDさん
一般NISAは、投資対象が「上場株式」「ETF」「REIT」「株式投資信託」と種類が豊富なため、自分の興味ある投資をしやすいことが特徴です。そのほか、非課税期間が5年であること、年間投資額の上限が120万円であることも、メリットとして挙げられるでしょう。
情報がたくさんある今では、考えにくいことかもしれませんが、制度が出た当初は、「課税口座の投資とほとんど変わらないのに、非課税でいいの!」と喜ぶ人が多かったものです。ですが、やはりデメリットにつながる部分もあります。今回は、2014年に一般NISAが始まったとき、非課税運用という甘い文句に飛びついてしまった会社員のGさん(36)の事例を紹介します。
Gさんは過去、課税口座で投資を経験しています。運用をするなかで感じていたのは、税金の高さです。源泉徴収ありの口座でしたから、わずかな利益でも20.315%分の税金が引かれ、手元に残る金額が少なくなっていました。そのため、NISAの概要を知ったとき、「税金について何も考えずに、全部自分のものにできるなんて最高だ!」と安易に考えたのです。
さっそくNISA口座を開設したGさん。「非課税なら利益がより多く出たほうが得だ、だから儲ける投資をしたい」と考え、主に個別株へ投資しました。年間の投資上限額が120万円ですから、一部購入できないものもありますが、多くの場合は購入可能です。
Gさんは、利益がきっと大きくなるだろうと期待し、翌年も同じように投資を続けました。しかし、1年目のような評価益は出ませんでした。時間が経過するにつれ下がっていき、ついには評価損が発生してしまいました。
「時間が経てばもとに戻るはずだ」。自分で自分を励ますようにしていましたが、評価損が大きくなったまま、非課税期間の終了時期が迫ってきました。非課税期間は5年。長いようで短いものです。焦ってはいたものの、5年間どのような投資をすべきか、プランもないまま始めてしまったため、どうにも挽回できません。選択肢は、ロールオーバー(※1)を利用するか、損を確定し課税口座に置き換えるか、しかありません。
※1 ロールオーバー
5年間の非課税期間が終わったあと、翌年の投資枠に乗り換えてさらに5年間、非課税期間を延長する制度。
ロールオーバーをすると、追加で5年間、運用を続けられますが、もちろん、その後の成績が保証されているわけではありません。今まで以上の損が出てしまう可能性もあります。また、NISA口座ででた損失は、損益通算(※2)ができませんし、繰越控除(※3)もできません。損は損のままとなってしまうので、できるだけ評価損は増やしたくありません。
※2 損益通算
一定期間内の利益と損失を相殺すること。ある投資を行って利益(譲渡益や配当など)が出た場合、税金が発生しますが、もう一方で損失が出ていた場合には、利益分を差し引き、税金を減らすことができる。
※3 繰越控除
本年分の損失を控除しきれないときに、翌年以降にその損失を繰り越し、翌年以降の利益から控除できる制度。
「良い投資」「悪い投資」は、自分の考え方次第?
Gさんは悩みに悩んで、結局損を確定させることにしました。もう少し制度について学んでいたら、悲しい結果にならなったかもしれません。もしくは、「非課税期間いっぱい使わないと損だ」なんて思わず、途中で手放すべきだったのかもしれません。
大きな金額を投入でき、商品も豊富に選べる一般NISAですが、期間も短いし、なんだか小難しいと悩む声も多く聞きます。一理はありますが、5年という短期間で大きな利益を期待するのではなく、「長期」「分散」「積立」という投資の原則に則った投資をすることで、利益を得ていくようなスタイルを考えるべきでしょう。何より、投資に絶対はありませんから、「良い投資」「悪い投資」は、個人の考え方と、成績次第といえます。
誰だって、始めたばかりのころは知識が少ないものです。資産運用を効果的に行うためにも、少しずつ情報を集めたり、知識を学んだりしながら、後悔しないような資産運用をしていきましょう。
自分がどのような資産運用をするかは、考え方次第です。
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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント
株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の問題の抜本的解決、確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。 これまでの相談件数は23,000件を突破。各種メディアへの執筆・講演も多数。 著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』や『年収200万円からの貯金生活宣言』を代表作とし、著作は120冊、累計330万部となる。 個人のお金の悩みを解決したいと奔走するファイナンシャルプランナー。