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今月下旬になりますが、日本銀行から資金循環統計(2019年12月末速報)が公表される予定です。前回の公表値(2019年9月末速報)によれば、家計資産の合計は1863兆8813億円となっており、そのうち現金・預金は985兆5953億円でした。全体の過半となる52.9%を占め、この傾向は、これまで同様、今後も続いていくに違いありません。政府は永らく、貯蓄から投資へ、貯蓄から資産形成へ、を叫んでおりますが、果たして転換点はやってくるのでしょうか。
いうまでもなく、日本の家計資産は欧米に比べてリスク資産の割合は低くなっています。特に株式・投資信託の差が大きく、日本証券業協会の調査では、1960年代の調査開始以来、一貫して、有価証券を一度も保有したことのない人が7~8割を占めているのが実情です。家計における金融資産の選択基準は安全性重視といわれていますが、バブル景気の時代には収益性を重視する比率が一時高まりました。しかし、バブル景気の崩壊を経て、安全性、流動性を重視する傾向に戻っています。
ところで、実は欧米でも家計におけるリスク資産投資が少ないことは、数十年前から指摘されていました。家計の資産選択について、古典的な資産選択理論を前提とすれば、リスク資産の期待収益率が安全資産の利率を上回る限り、たとえリスク回避的な家計であっても、その資産の一部あるいはすべてをリスク資産で保有するのが合理的です。ただ実際には、リスク資産を全く保有しない家計も珍しくありません。家計のリスク資産投資不足は「Stockholding Puzzle」と呼ばれています。このパズルを解こうと、欧米を中心に様々な研究がおこなわれ、多くの要因が提示されてきました。そのいくつかを紹介すると、流動資産の保有額が少ないことによる流動性の制約、株式投資の参加コスト及び情報取得にかかる固定コスト、学歴の属性、資産選択の慣性、住宅保有による効率的なポートフォリオ選択の阻害、市場関係者やアドバイザーの信頼度、金融リテラシーと投資の相関関係、金融知識と自信、といったものがあります。日本の家計を対象とした研究では、強い持ち家選好、その予備的動機としての流動性預金の保有、年功序列賃金制度が株式保有比率を押し下げているとか。また、社内預金や、年功序列制度下の賃金と生産性のギャップといった、いわば会社への見えざる出資が、若年期の勤労家計の株式保有を抑制しているという説もあるそうです。
日本で、貯蓄から投資へ、貯蓄から資産形成へ、がすすんでいない背景には、何かひとつというよりも複合的な要因があります。政策目標に沿うような制度整備や啓蒙活動をおこない、市場環境の条件が揃えば、家計が計画的に資産形成に取り組んでいく可能性もあり、そのためには、資本市場の健全な発展や、家計の安定的な資産形成という観点から、社会保障制度、雇用環境などの変化を踏まえた意識改革が必要です。従来、証券会社の店頭に足を踏み入れるのも怖いという意見も多かったなか、最近の傾向としては、たとえばロボアドバイザー、家計管理ソフト、アプリなど投資が手軽にできる手段も増え、投資家の裾野拡大につながるチャンスも見受けられます。一方で、金融知識が不足している状態で移行するのは大変危険であり、売り手側の金融機関も販売姿勢を見直していかなければなりません。
ここ数年、フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)という考え方が広まり、売り手ではなく、顧客本位の業務運営を厳しく問われています。弊社では当初から、そしてこれからも、その姿勢で取り組んでいくことに変わりはございません。